環境経営 生態系も守る
森ビルや富士通などは環境対策として、数多くの種類の生き物が生息できるようにする「生物多様性の保全」を重視し始めた。
都心の再開発計画に鳥類や昆虫などが集まりやすい環境づくりを盛り込んだり、環境報告書の目標の一つに掲げたりする。
国の基本法が施行され、国連の会議が日本で開かれるなど生物多様性への関心が高まっている。
今後温暖化ガス削減に次ぐ環境経営の柱にもなりそうだ。
6月に施行された生物多様性基本法は、企業に事業活動に伴う生態系への影響低減を求めている。
2010年には名古屋で国連の生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)も開催されることが決まっている。
森ビルは地上46階建ての複合ビルなど建設する東京・虎ノ門地区の再開発事業について、緑化地域を動植物の種類の多さなどを考慮して設計する。
多様性がどの程度保てる計画であるか、日本生態系協会に評価を依頼した。
同協会は鳥やリスやカマキリなどを「評価種」として選び、その生物が生息しやすい環境が保たれているかを判断する。
鳥やリスがいれば、その餌となる動植物も生息できるとみなせるからだ。
また緑地内に植える樹木の種類や土質の選定などについても森ビルは同協会から助言を受ける。
富士通は2020年までの中期環境計画の目標に生物多様性の保全を盛り込んだ。
生態系に与える影響の分析方法や多様性保全目標の策定を進める。
IT(情報技術)を使い動物の移動を遠隔観測するシステムなどの面でも保全に協力する。
三井物産は、2008年度中に、国内73カ所に持つ社有林のうち5カ所で、生物多様性調査を実施する。
日本生態系協会に委託する。
人工林は自然林に比べて生物の種類が乏しいケースが多く、多様性の実態を把握し、森林管理に役立てる。
リコーは自社の事業が生態系に与える影響について把握することを目指す。
木材の切り出しや鉄鉱石の掘削など素材の段階から影響を調べる考えだ。
これまで、企業の環境対策は地球温暖化の防止や水質・地質汚染への対応などが中心だった。
ただ、環境の変化で特定の生物しかすめなくなり、種の絶滅が起きていることなどが、広く世の中の関心を呼んでいる。
環境への貢献が企業価値の向上に直結しているなか、生物多様性の保全が新たな環境経営の指標として浮上している。
▼生物多様性の保全
鳥類や昆虫、植物など多種多様な生物が生息しやすい環境を維持する取り組みのこと。
環境破壊で生物多様性が保てなければ、やがて人間の生活維持も脅かされるとして、1992年に国際協力による保全を目的とする生物多様性条約が採択された。
同条約締結国会議は「2010年までに生物多様性の損失速度を目立って小さくする」との目標を掲げ、期限の2010年に名古屋で開かれる会議では、新規目標が設定される。
日本経済新聞より
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